⑲ 心のパートナー(ゆきちゃん)

『ひとりぼっちは嫌い』と心が騒ぐと、もう1人の自分を作り上げる・・かも、知れません。『過去の出来事を忘れたい』、この思いは気を紛らすために、誰かと、遊ぶ行動で表れる。

「孤独は嫌い」だから、居場所を求める。「大人(親)は嫌い」だから、友だちを求める。


悠季は、友だちを作る切っ掛けに、良太の話をしていた・・が・・、その話を封印した事で他の言葉も使えなくなった。ここ数日の悠季は、“友だち、友だち”、と、騒ぐ事なく落ち着いた日々を過ごしていた、そんな時に、“ボーン” と、元気よく玄関ドアが閉じられた。

その音に驚いた未夢が玄関へ行くと、

「新しい友だちが出来たよ♪」と、息を弾ませて「ゆきちゃん、って、言うんだ。悠ちゃんよりも1つ年上なの、だから2年生なんだ。この近くに引っ越して来たばかりで友だちが居ないんだって。」と。

話す悠季の顔も声も嬉しそうに弾んでいた。

「そっか~ぁ、良かったね、家が近いんだ、たくさん遊べるね。」と、未夢も喜んだ。
「うん、遊びに行ってくるね。」と、元気に家を飛び出した。


この時から始まった、悠季の嬉しそうな顔、弾む声は、遊びから帰ってきても、 次の日になっても、 消えることはなく、未夢は『友だちが出来て本当によかった』と、喜んでいた、が・・、


3日後、遊びから帰って来た悠季は微笑みながら、

「今日もね、悠ちゃんが階段に座っていたら、ゆきちゃんが来たの。それでね、今日はね、たくさん話をしたよ。」と、話し始める悠季の顔には、笑みが広がる。

「お兄ちゃんが交通事故で死んじゃって、お母さんは、泣きながらお酒ばかりを飲んでいるんだって、お父さんは、家に帰ってこないんだって、でもね、たまに帰ってくるけど、夜遅く酔っ払って帰ってくるんだって、」

未夢を見つめて話し続ける悠季、その顔から笑みは消えない、
『その話って・・』と、過ぎらせる未夢。

「そうか、辛いね、ゆきちゃん、可哀想だね。」と、未夢はゆっくり言葉をかける。

「それでね、お父さんとお母さんは、ケンカばかりしているから離婚しちゃうかも・・」と、話を切ると下を向く悠季、その顔から笑みを消すと未夢から離れていった。

悠季が話すその内容は、未夢を記憶の中へ陥れた『交通事故・涙・お酒・離婚』それらの単語は、兄の良太が死んだ当時の家庭内の様子とほぼ重なった。

悠季の背中を見つめる未夢・・・、

「ゆきちゃんのお母さんに、ママも、会いたいなぁ。ダメ、かな・・? だってさ、ママと、ゆきちゃんのお母さん、よく似ているよね。ほら、良太が死んだ時、ママも泣きながら、お酒ばかり飲んでいたじゃない。ゆきちゃんのお母さんと、ママは一緒だね、

ゆきちゃんは、辛いよね、悠季も辛かったでしょ。ママね、ゆきちゃんのお母さんの気持ちが解るような気がするの、だからね、話が合うかも知れないよ、ママ、話をしたいなぁ、ダメ、かな?」


悠季は、ただ、未夢を見つめ続けていた、まるで『何を言っているの?』と、言いたげに・・。


「ママ、お手紙を書こうかな、お手紙を書いたら、悠季は、ゆきちゃんに届けてくれる?」
「うん、いいよ」と、速攻で戻した悠季の声は、明るい。

「悠季は、ゆきちゃんの家を知っているの?」
「知らない、だって、悠ちゃんが1人でいると、ゆきちゃんが来るんだ。」
「そうか、じゃあ、悠季が友達と一緒に居る時は、ゆきちゃんは来ないの?」
「うん、」と、応えると、外を見つめた。

「ゆきちゃん、どこに住んでいるのか、解らない。」と、応えながらも窓へ歩み寄り、
「あの辺から来るんだ。」と、道に向かって指さした。

「そうか・・、悠季は知らないんだ。じゃあね、今度、ゆきちゃんに会ったら、お家がどこなのか、聞いてくれる? それでね『ママが会いたい、って、言ってた』って、伝えて欲しいの。そしたら、ほら、悠季と一緒に遊びに行けるでしょ、ねっ。」

「うん、解った。」と、ニコニコしながら応えた。


その後、未夢は手紙を書いて悠季に手渡した。
あれから・・・・・数日が過ぎると遊びから帰ってきた悠季は、


「ゆきちゃん、お腹が空くと、お菓子とジュースを食べているんだって・・、でもね、お菓子がもうじき、なくなっちゃうんだって・・、」と、語る悠季はどこか遠くを見つめている・・・

そんな悠季の顔は自分が困っている、表情・・だった。

「そうか、ゆきちゃん、ご飯を食べていないの?」と、未夢が声を掛けるが・・、未夢の声など悠季には届いていない・・・・・悠季の視線は下へ、

「お母さんは、ご飯を作ってくれないんだって、台所のテーブルの下に段ボール箱があって、その中に、お菓子とか、カップヌードルが入っているんだって、それでね、ゆきちゃんは、其処から取り出して、食べているんだって、」と、悠季の言葉はゆっくりと語られた。

まるで、岩手での記憶を語るように声のトーンが下がり、視線も落ちた、

「そうか、でもさ、カップヌードルやお菓子だけじゃ、身体、壊しちゃうよ。」

未夢は悠季を見つめて言葉を掛けていたが、悠季の耳には全く届いていない様子・・、そんな悠季は、自分がしゃべった話しを耳から聞き取り、当時の出来事を再確認しているような、時空間を彷徨って振り返っている・・かのように見えた。

「ゆきちゃん、お腹が空いているけど、食べる物がないんだって、お母さん、作ってくれないんだって・・」と、

ゆっくりと同じ話の内容を、繰り返す悠季は、“心ここに在らず” の状態だった。
過去の時を彷徨い、何かを探しているような、確認をしてるような、姿に見えた。

その後の悠季は、学校から戻ってくると、いつものように家を飛び出し、遊びに行く、
そして、帰ってくると「ゆきちゃんと遊んだ」と、報告のみ・・が、続く、


ゆきちゃんの話をしなくなり・・数日が過ぎた。
未夢は、妙に悠季が気になり、食事の支度をしながら、


「ゆきちゃん、ご飯、食べているかな? お母さんが、ご飯を作ってくれないんじゃ、ゆきちゃん、どうしているのかな・・」

「ゆきちゃん、お腹が空いても食べる物がないから、それでね、食べ物を捨てるゴミ箱の中から、食べられる物を探して、食べているんだって。」と、

スラスラと話す悠季に、未夢は疑問を持つ『その話は・・嘘?』と。

悠季が、ゆきちゃんの話をする時は、どこか遠くを見つめているように、一齣、一齣を、ゆっくりと話していた。その姿は『何かを思い出し、その出来事を言葉にする』そんな流れを感じていた、が、今は、未夢へ視線を送り、はっきりと言葉を使っていた。

『ごめん、聞いちゃ、ダメ、なんだよ・・ね、』と、未夢の心の声が流れる

「ゴミ箱の中から食べ物を拾って食べていると、お腹、壊しちゃうよ。ゆきちゃん大丈夫かな。以前に悠季が話してくれたのは、『カップヌードルやお菓子を食べている』って、言ってたよ。」と、悠季と視線を合わせて話す未夢。

「うん、今は、無くなっちゃったんだって、でもね、ゆきちゃんが『お腹空いた』って、言うと、怒鳴られちゃうんだって。」と、訴えると「ゆきちゃんが学校へ行こうとすると、お母さんが止めるんだって、それでね、なかなか学校へ行けないんだって、でもね、今日、始めて学校で会ったんだよ。」と、急に声を弾ませた。

「そうか、今日、始めて学校で会ったんだ、良かったね~ぇ、ゆきちゃんも学校へ行けて良かったね」

悠季は嬉しそうに頷く、

「悠季がゆきちゃんと学校で会う時は、どんな時?」
「悠ちゃんが1人でいると、ゆきちゃんに会うの。」

「そうか、じゃあ、悠季の友だちは、ゆきちゃんのことを誰も知らないの?」
「うん、悠ちゃんが階段に座っていると、後ろからゆきちゃんが来るの。」笑みを広げる

「あれ、そういえば、悠季が遊びに行くと、ゆきちゃんによく会うよね。その時も、悠季が1人でいる時・・なんだよね。いつも悠季の後ろから来るんでしょ。」

未夢は、悠季が話してくれた内容を、そのままに悠季に問う。

「この間、学校へ来た時は、前から来たよ。」ほほえむ。
「そうか、前から来たんだ。」
「うん、東門から入ってきた。」

にこにこと笑みを見せる悠季に、笑みを返す未夢は『ゆきちゃんは、悠季の心の中に住む人だ』と確信した・・。また、悠季も東門から入るのです。

ゆきちゃんの話で埋め尽くされた約2ヶ月、この間の悠季はいつも1人で遊んでいた、のかと過ぎると、切なさがこみ上げた。それでも未夢は『僅かだけれども、岩手での暮らしを、当時の話を、聞けた』と、ホッとした。

恐怖を学んだ心は、自分の気持ちを語れない。
そんな自分を守るためには、もう1人の自分が必要なのです。

思い出したくない出来事、消したい出来事、忘れたい出来事などは、自分を介して話す事に抵抗があり、また、思い出したくないから、話す事もできないのです。 その状況を改善してくれるのは、一番、身近にいて、全てを知っている、もう1人の自分なのかも知れませんね。 もう1人の自分に、口火を切ってもらう事によって、自分の口から話す切っ掛けにもなる・・と、未夢は考えていた。

未夢は子供の頃(小1)、幸せそうな子と母を目にすると、私は“あの子と入れ替わる”なんて念じた時期がありました。悠季を見つめていると、その当時の思いが横切る。


⑳ マニュアル指導が子どもの心を傷つける(先生の対応)

梅雨の季節を迎えて、花にも人にも恵みの雨が降る。
でも、心に降る雨は、誰の目にも見えない悲しい雨、いつ、止むのだろうか・・・・・

毎日のように、傘の花とあじさいの花を目にするこの時期に、雨が悠季の心を導いたのだろうか・・、それとも、傘を差す悠季に手を差し伸べたのだろうか・・、もう1人の自分を表面化させた。

「ゆきちゃんの傘なのに、菜ちゃんが持っていた。だから、悠ちゃんが持って帰ってきた。」と、手に握りしめている花柄の傘を前へ差し出して、未夢に見せた。

そんな悠季は、まるで学校から逃げて帰って来たように、雨に濡れ息を弾ませていた、驚いた未夢がタオルを手にし玄関へ戻ると、悠季を拭きながら話を聞いていた、そのとき、電話のベルが鳴る。

「今すぐに、謝りに行って下さい!」と、甲高い声を張り上げるクラス担任の吏子先生は『また、あんたの子よ』と、呆れるように怒りを露わにし、菜ちゃんの住所をしゃべり切ると、電話が切れた。

「今、先生からの電話で、菜ちゃんの傘だから、謝りに行ってくれ、って、」
「これは、ゆきちゃんの傘」『信じて』と、訴える悠季の視線は真っ直ぐに未夢へ飛ぶ。

悠季の怒りを受ける未夢の頭が縦に動くと、「ゆきちゃんが、菜ちゃんから傘を借りていたのかも知れないよ、だから、ゆきちゃんの代わりに、悠季とママで返しに行こう、ねっ。」

未夢は、悠季がなんとか納得できる言葉を探して話したが、悠季は「ゆきちゃんの傘だもん」を繰り返して、怒りを抱えたまま、未夢に促されて車に乗り込んだ、が「ゆきちゃんの傘だもん」と、傘を見つめては何度も訴えていた。


そして、翌日、未夢はリビングにて本を読みながら、学校から戻る悠季の帰りを待っていると、突然、背後に気配を感じて振り向くと、そこには、亡霊のように悠季が立っていた。

「ビックリした・・、どうしたの?」

「先生に『頭がおかしいんじゃない、病院へ行きなさい。』って言われた、そしてね、『嘘をつくんじゃない』って叱られた。でも、嘘をついていないもん。ゆきちゃんは居るんだもん。悠ちゃんは頭がおかしいの? 病院へ行くの?」

吏子先生は 、ゆきちゃんの存在を否定しただけではなく、悠季の存在までも否定して心までも傷つけた。未夢へ視線を送る悠季の目に涙が光り、心が抱える不安がこぼれ落ちるように、目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

「悠季の頭はおかしくないよ、だから病院へ行く必要も無い。」
「だって、先生が言ったもん。『お母さんに病院へ連れて行ってもらいなさい』って」

泣きながら訴えるその言葉の意味は『病院へ行かないと学校へ行けない』と、悲痛な思いを大粒の涙で表し、未夢へ訴える悠季を引き寄せると、抱きしめた。

「大丈夫、悠季は正常だよ。頭なんておかしくない。もしも、悠季が病気だったらママは先生に言われなくとも悠季を病院へ連れて行く。だから、心配をしないで悠季は正常だよ。ママには解る。」

微笑む未夢。

すると、悠季は・・未夢の腕をくぐり抜け、後ずさりしながら未夢から離れていった。その足で階段を上り・・、部屋へ入ると・・普段はドアを閉めないのに・・静かに閉めた。

悠季の後ろ姿を見守り続けていた未夢は『酷い、先生ともあろう者が、生徒の心をいとも簡単に、傷つけて、酷い、酷すぎる』と、怒りが込み上げてきた。

気がつくと、未夢は学校へ電話を入れて、クラス担任の吏子先生を電話口に呼び出していた。
すると、電話口に出た吏子先生は『待っていました』と言わんばかりにアクセル全開。

「今日、悠季ちゃんがあまりにも頑固に嘘を言い張るから、授業中に悠季ちゃんと2人で1年から6年生までの全クラスを歩いて回ったんです。そして、悠季ちゃんに『ゆきちゃん』という子が、いるのか、いないのか、探してもらいました、でも、どこを探しても、どこにも居ないんです。職員室では名簿も調べてみましたが、転校生もいません。 だから『嘘をつくんじゃない』と、注意をしておきました。それでも・・・・・」

喋り続ける吏子先生の口は、とても軽やかに軽快に走り続ける。しかも、同じ内容を、何度も・・何度も・・繰り返す・・、そんな自慢話に耳を貸す未夢は『ひどい・・酷い事をするな・・』の思いを秘めて『まず、謝罪へ行ったか、相手の対応はどうだったのか・・』その確認から始まるでしょ、と、過ぎせて、吏子先生からの言葉を待っていたが、『私は偉いでしょ、先生の中の先生でしょ、悠季ちゃんのためだけに貴重な時間をつかったのよ。こんな先生は、他にはいないでしょ』と、自分の行動のみを褒め称えていた。

『それは自己満足で、教育ではないでしょ・・』と、未夢の心の声がざわつく。

先生が言っている『嘘』を子供に伝えるには、子ども自身に『嘘を認めさせる事』それには『証拠を提示して嘘をついた事を子ども自身に気づかせる事』と。

正に、子育ての本や教育のマニュアル書などに記載されている文面の内容を、そのまま実行した事を、吏子先生は誇らしげに言っていた。しかも、その労力と時間は、悠季だけに注いだ、と『私は、先生の鏡でしょ』と、言っているように未夢に届いた。

止まらない止まらない、吏子先生の自慢話はいつまでも・・続く。 未夢が何度、声を掛けても吏子先生の耳に届かず、正に踏み込んだアクセルペダルをベタ踏みして、突っ走っている勢いだった。

意を決して、息を吸い込んだ未夢が、「先生、先生、吏子先生、ちょっと待って下さい。私の話も聞いて下さい。」と、半ば大声を飛ばした、すると、やっと声が切れた。

ふぅ~、と、息を吐いた未夢は「悠季は、嘘をついていませんよ。」と、話し始めると、

「ゆきちゃんは、いないんですよ、それなのに、悠季ちゃんは、ゆきちゃんはいると言い張るんです。これが嘘と言わず、何が嘘なんですか。」と、切れまくる吏子先生の怒り声。

「吏子先生、今、私が話をしています。今度は、吏子先生が私の話を聞いて下さい。」
と、ゆっくりと静かに未夢が声を掛けて、一拍おくと、

「子どもは、小さい頃からままごと遊びをします。つまり空想の世界を作り上げることに長けています。イメージを膨らませて、架空の人物やモノを頭の中でイメージしながら遊んでいます。 そんな遊びは右脳を育てる事に繋がり、親も、先生も、そのような遊びを子供にさせています。」

「はあ~」と、何言ってんだと呆れ声。

「そんな子どもが、小学校へ入学すると、今度は、左脳を使う練習が始まります。でも、子どもの脳は、まだまだ右脳を使っています。まして入学当初の、この時期は、右脳が活発に活動している時期とも言える、と、思います。私なんかよりも、吏子先生の方が、お詳しいのでは・・・・」

「はい」と、元気な声が返ってきた。

「今の悠季は、自分でイメージしたものなか、実在するモノなのか、悠季自身にも理解が出来ていません。子どもにとって想像の世界は、ある意味で、救い・・なのかも知れません。それなのに、大人がこの部分を “嘘” という簡単な言葉で切り捨てることは、いかがなものか・・、悠季は、嘘をついていないんです。」

「学校には、ゆきちゃんは、いませ・・」と、怒りから、話を切った吏子先生。

「悠季には見えるんです、見えるからこそ、嘘をついている、という自覚はありません。ただ、言えることは『今の悠季には、ゆきちゃんが必要だ』と、言うことなのです。」

吏子先生の声が全く聞こえなくなった。

「吏子先生。悠季も、子ども達も、学校へ通い出すと、先生の話や言葉など、全てを『絶対』として認識します。 極端な言葉を使えば、親よりも先生が『全て、正しい』と、理解をするのです。

そんな吏子先生から、悠季がいわれた言葉は、『つき』とか、『がおかしい』とか、『病院へ行きなさい』の言葉です。悠季は、どんな思いを抱えたのか、吏子先生には想像が付きますか?
泣いて、帰ってきましたよ。とてもショックを受けていました。」

「すみませんでした」と、かえってきた言葉だったが・・

「色々、生意気なことをいいまして申し訳ございません、 今暫く、先生の寛大なお気持ちで、悠季を、そして子ども達を、見守って頂けないでしょうか。是非、よろしくお願い致します。」


先生からの返事はないままに、未夢の『失礼します』の言葉で電話を切った。
電話を切った未夢は、“先生には・・伝わっていない”、ことを悟った。


悠季にとって、今、ゆきちゃんが必要なことは、充分、解っていたが、悠季が、ゆきちゃんのことを、誰かに話せば、また、悠季が傷つくことも、目に見えていた・・、

悩んだ末に『ゆきちゃんの話は、学校や友だちにしないで』と、未夢が伝えた。

心に傷を持つと『二次・三次被害に遭う』この道を防ぐことも・・大切。

その後は、悠季の口からゆきちゃんの話が消えた・・数日が過ぎた。
悠季が気になる未夢は、
「最近、ゆきちゃんに、会っていないの?」と、声を掛けた。

「ゆきちゃんのお父さんとお母さんは離婚をする事を決めて、ゆきちゃんは、お母さんと一緒に引っ越した。・・・引っ越すんだって、」と、言い換えて口を閉じた。


岩手で暮らしていた悠季は、未夢(母)から離れた事で、寂しさから心が壊れた。その後も、心は満たされないまま、悲しさ、苦しさ、そして空腹までもが悠季を襲った。その辛さを1人で抱えきれずに、また、悠季が生き抜くために、ゆきちゃんが生まれた。

今まで、誰にも話す事が出来なかった悠季が、やっと、ゆきちゃんの名を借りて未夢に話す事が出来た。この出来事は過去の話を語る切っ掛けになったのかも知れない。