⑩ お尻フリフリ♪(岩手での生活)

親のご機嫌伺いをする子供は『何らかの思い』が、親へ恐怖を抱いている、かもしれない。

朝を迎え、今日もいつものように慎也は会社へ、未夢は洗濯も終わり、ちょっと休憩、壁にもたれるように座り込むと、窓から窓へ流れる秋の空気に・・身を寄せた。

精ちゃんがいる時は悠季も競うように何でも食べていたのに、じゃぁ、なんで食べようとしない? そういえば悠季と慎也の距離が縮まったのも、精ちゃんのお陰だ・・と思いが流れる。

悠季がトイレから出てきた。

「ママ~」と、悠季の声、目を開けるとクルッと180度回転した、
「お尻フリフリ♪ お尻フリフリ♪」と、小さなお尻が小気味よくリズムを刻む。
「かわいい~」と、その動きに便乗するように、未夢の楽しそうな声が重なる。

  揺れるお尻、お尻を追いかけて白い物も揺れる、
  その全てが、まったく違和感なく、未夢の視線を釘付けにした。
  キャッ、キャッ、喜ぶ未夢を楽しませるように、悠季のお尻が揺れ続く。

「ねっ、お尻と一緒に白い物が、ひらひらと揺れているよ。」と、未夢の声で振り向く悠季、
「トイレットペーパーがパンツに挟まっているよ。」
「大丈夫」と一言返し、再び『お尻フリフリ♪』をする悠季。

  『大丈夫』の言葉に疑問を持った、未夢、

「どうしたの? パンツ、濡れちゃったの?」
「うん、でも大丈夫、こうしておけば冷たくないから。」と、お尻を動かす。
「悠季、いいんだよ、パンツを履き替えて、ねっ。」と、呼びかけた。

振り向いた悠季の顔は、とても不思議そうに “キョトン” としていた。
「いいの? 偽善さんは『洗濯物を増やすな!』って、怒ったよ。」

「うん、いいんだよ。ほら、悠季はパンツをいっぱい持っているでしょ。だから、パンツも悠季に履いて欲しい、と思っているよ。ねっ、パンツが濡れちゃった時は、交換してあげてね、
パンツだって、タンスの中に入っているよりも、悠季が履いてくれる方が、喜ぶよ、ねっ。」

顔をほころばせた悠季は、ニコニコしながらタンスの前に駆け寄った。
引き出しを開けると、「どれを、履こうかな~ぁ。」と、声を弾ませた。

未夢がテープルの前へ移動すると、パンツを履き替えた悠季が隣に座った。

当時の悠季が食べる物と言えば、親の手を煩わせない“お菓子とジュース”、これが、食事代わりになっていた。 そんな悠季は子どもらしくない骨皮体型 、正に子どもは環境で代わると未夢に見せつけた出来事の1つ。悠季を見つめる未夢はネグレクトを過ぎらせる、でも、以前のように食事を食べる子に戻って欲しいと、日々、食事メニューに四苦八苦していた。

「何が食べたい? おいしい物が食べたいね♪」
「保育園で出た、お弁当、おいしかったよ。」と、嬉しそうに微笑む。
「そうか、保育園では、お弁当がでるんだ。」
「うん、悠ちゃんは楽しみだったんだ~ぁ。おいしいんだ。」と、

目をキラキラさせて話す悠季の思いは、
心の底から楽しみにしている事が伝わってきた、が、未夢に疑問を持たせた。

「家では何を食べていたの? お腹が空いた時は、どうしていたの?」

「冷蔵庫の中に、かまぼこを見つけたから『お腹が空いた』って、偽善さんに言ったんだ。
そしたら『これでも食っていろ』って、バターを出された。」

「えっ、『バターを食べろ』って、言われたの?」
「うん、ソースも食べた事があるよ。」

にこにこして応える悠季の顔と笑み、対照的な顔をした未夢の口は閉ざされた。

「バターも、ソースも、おいしかったよ♪」と、
まるで未夢の気持ちを察するように、悠季が未夢へ微笑む。

「悠季、ちょっと待って。
あのね、バターもソースも確かに食べ物だけど、そのまま食べる物じゃないんだ。
お料理に使ったり、パンを焼いた時に付けたり、おかずに掛けたりするもので、
調味料っていうんだよ。
たぶん、この時の悠季は、お腹が空いていたから、おいしい、と思えたんだよ。
でもね、もう食べないで、身体を壊しちゃうよ。味が濃いからねっ。」

未夢は悠季が学んだ情報を必死に修正していた。
そんな未夢に頷いた悠季は、疑問が湧いた、それとも・・

「どうして、かまぼこがあるのに、バターだったんだろう?」と、首を傾げた。
「なぜだろうね、バターよりも、かまぼこの方が、おいしいのに、ねっ、」
「うん、悠ちゃん、かまぼこ、スキだもん。」

ニコニコと応える悠季の笑顔は、未夢に切なさを運んできた。

  『かまぼこは、偽善が酒のつまみに食べていた、1品だ』・・ムッ、
   過ぎらせた未夢、話を切り替えたくて保育園の話に戻す、

「そうか、保育園ではお弁当が出るんだね、良かったね。美味しそうだね♪」

「うん、楽しみなんだ。でもね、たまぁ~に、お弁当を持っていく日があるの。
その時は、偽善さんに『お弁当を作って』って、言うんだけど、寝たふりをして起きないんだ、いつもは早く起きているのに、保育園にお弁当を持っていく日は、いつも、寝ている振りをするんだ。
どうしてなんだろう?」と、再び首を傾ける。

「それで、悠季は、どうするの?」と、答えを避けて、未夢が問う。
「お弁当箱を持って、お母さんのところへ行くの、そして、作ってもらうんだ。」

応えた悠季は、未夢から期待する答えがもらえない事を悟り・・側を離れた。
知ってる、朝は5時に起きる事を、お弁当を作らない偽善も・・知っている。

「そっか、良かったね、お母さんに作ってもらえて、本当に良かった・・ぁ。」
悠季の背中に声を飛ばす未夢は、岩手での生活を垣間見ていた。

偽善の家にて話し合いをした時、未夢はキッチンテーブルの下に少し大きめの段ボール箱を目にし、その箱の中からお菓子やジュース・カップ麺などが覗いていたのを思い出した。
これが、食事に対する興味をなくした原因で今の悠季を作り上げた・・流れだ、と思った。


⑪ おねしょと恐怖

子どもの場合、不安定な気持ちを言葉で表現する事が難しく、“おねしょ”、という形で表す場合が多い。気持ちが落ち着けば、きっと、“おねしょは、直る” と、未夢は信じている。

次の日の朝、目を覚ました未夢は、隣に寝ているはずの悠季の姿が・・ない。驚いた未夢は、悠季の名を呼びながら部屋の中を探し回った、玄関で鍵と靴を確認、お風呂場のドアを開けて確認、おトイレのドアも開ける、押し入れや、タンスの中と、全てのドアを開けて悠季の姿を探し回った。

見つからない・・・。

気を取り直して、今一度・・部屋の中を歩き回る、タンスの横、カーテンの中・・と、隠れることが出来る、僅かな隙間までも事細かく、未夢は、目で探し、手の感触を頼りに・・・悠季を探す。

その時、未夢の手が悠季の身体を見つけた、ホッ、と、顔が緩み、
「なあ~んだ、見つけたよ、ここにいたんだ、心配したよ、どうしたの?」

明るく声を掛ける未夢の手が、悠季へ伸び、悠季の身体に触れた・・その時・・未夢の手は反射的に、“引く”、が、 未夢の両手は悠季を包み、抱き上げると胸に抱きかかえた。 そんな未夢の手が、触れたのは悠季の身体全体を覆うように、生冷たさに包まれていた。

未夢の腕の中で、小さく、小さく、固まる悠季、その身体は・・ガチガチ。
固まった身体を包み込んでいるのは、濡れたパジャマ・・いつもより重く感じた。

「そおぅかぁ、おねしょ、しちゃったんだぁ」と、
明るく声を掛けた未夢は、悠季を抱いたままお風呂場へ向かった。

未夢の腕の中で、まるまる悠季の身体は、まるで、でっかい鉄の玉のように重く、 表面はツルツル・・指がかからない『落とさないように、落とさないように、』と慎重に脱衣所まで運んだ。

腕の中から悠季をゆっくりおろして「着替えようね、濡れたパジャマを着ていると、風邪、引いちゃうよ。」と、悠季を見つめて話す、未夢の手はパジャマを脱がせ始めた。

その時、悠季の顔が、やっと持ち上がった、

「怒らないの?」と、顔には大きな疑問符が張り付いていた、
「怒らないよ。いいんだよ。おねしょをしても、ねっ。」と、笑みを返す未夢。

偽善さんは怒ったよ。悠ちゃんは叩かれた。ものすごーく、恐かった。」
未夢を見つめて、必死に話す悠季の瞳は、恐怖を味わった当時を・・未夢へ伝えていた。

隠すという行為』は、怒られた、叩かれた、などが生んだ『恐怖』である。
その恐怖から、逃れたい回避したい、の思いが、隠すという行動に表れる。

「そうか、叩かれちゃったんだ、酷いね、痛かったね。叩かなくてもいいのにね。
おねしょは、ねっ、子供だから出来るのにね~ぇ、
おねしょの処理なら任せて。良太なんか小学生になってもしていたよ、(笑)。
ねっ、心配をしないで、きっと直るから、その時まで、おねしょをしてもいいんだよ。」

手を動かしながら、ゆっくりと明るく話す未夢が微笑む。
不思議マークが取り切れない悠季は、ニコッと返した。

「それでね、ママとお約束をして欲しいの。おねしょをした時は、必ず、ママに教えて欲しいの。
ママは絶対に、怒らないし、叩かないから、ねっ、悠季が濡れたパジャマを、いつまでも着ていると、風邪を引いちゃうよ。お腹も冷えて、痛くなっちゃうよ。
だからね、おねしょをした時には、必ず、ママに教えて欲しいの、ねっ、直ぐに着替えようね。
ねっ、約束をしたよ。」

自分の身を護るために学んだ【隠す】という行為は【自分に嘘をつく】行為。この流れを繰り返すと、自分でも気づかないうちに『自分の心に沢山の傷(嘘)』を作ってしまう。自分に嘘をつく事を学ぶよりも、 “自分に正直になる事”、を学んで欲しいと、願いを込める未夢。

  当時の悠季がおねしょをした後に起こす行動パターンには、3パターンある。
   ① 部屋の隅で小さくなって隠れる。
   ② 悠季がいつも起きる時間まで、ベッドの中で寝たふりを続ける。
   ③ ②の逆パターンで、おねしょをした後に起きて直ぐに着替えを済ませる。
     その後は、何事も無かったかのように、いつもと同じように時を過ごす。

この流れを生み出す原因は『怒られた』『叩かれた』などの暴力行為から、逃れるために
学んだ行動なのです。おねしょ事件は、悠季が抱える恐怖の大きさを物語っていた。

予想を超える長期戦に未夢はお手上げ状態、そんなときに慎也を交えて夕食を囲んだ。
未夢は食事という場で、おねしょの話をする事に少し・・戸惑った、が、

「慎也はいつまで、おねしょをしていた? 良太は小学生になってもしていたよ。」
「俺か? そう言えば、俺も小学生の時までしていたな。」

ご飯を食べながら笑みを浮かべながら、いつもと変わりなく話をしてくれる慎也。

「その頃になるとさ、でっかい地図が、かけるよね~ぇ、」
「かける、かける。世界地図なんてもんじゃないよなぁ~。
その頃になると、途中で気づくけど布団の中でするのも気持ちいいんだよ~、」

おねしょの話で盛り上がり、笑い合う2人。いつもの悠季なら、こんな時は、必ず仲間入りするのに・・、この時ばかりは、全く、悠季の声は・・聞こえてこなかった。

それどころか『おねしょ』『笑う』この関連性に疑問を持つように、とても不思議そうな顔をして、未夢と慎也を見続ける、そんな悠季に未夢が視線を合わせると、

「ねっ。悠季もいいんだよ、良太も、慎也も、おねしょをしていたでしょ。
悠季だって、おねしょをしてもいいんだよ。もちろんママもしていたし、ねっ。」

「そうだぞ、おねしょは、子供のうちだけだから、なっ、
大人になってしたら、恥ずかしいぞ。今のうちに、いっぱいしておけ、なっ。」

慎也の声も未夢に釣られたのか、明るく弾ませてくれた。

「そうだよ、おねしょは子供の特権だもん。子供だからこそ出来るんだもんね、ねっ。」
「うん、」と、未夢に初めて、元気な返事を返してくれた悠季。

後は、悠季の笑顔に託す、

「おねしょをした時のお約束があります。必ず、ママに教えて欲しいの。悠季が次の日も気持ちよく眠れるように、ママがお布団を乾かしてあげるから、お布団だって、濡れたままじゃ可哀想だよ。
『乾かしてくれ~、濡れたままじゃ、悠ちゃんが可哀想だ~ぁ。』、なんて、お布団も言っているかもよ。だから、教えてね。約束したよ。」

ゆっくりと話す未夢に、笑みを浮かべる悠季、その笑みにたくさんの願いを込めた未夢。

その後、2度のおねしょは内緒。3度目のおねしょは、堂々と大きなシーツを引っ張って、台所にいる未夢のところまでやってきた。

「ママ、おねしょをしちゃった。だから持ってきた。」と、明るくにこにこと報告。
「はい、偉いね。教えてくれてありがとうね。」と、頭を撫でる未夢はホッとした。

子どものお漏らしやおねしょは、精神状態を現している事が多いのです。
つまり、子どもが発するSOSです、だから怒らずに子どもを見守って欲しいです。
子どもの気持ちが落ち着けば、必ず、直ると信じています。(私がそうだった・・未夢(^^)v)

でも、悠季の場合は『おねしょを隠す』という行動だった。
それは、悠季が受けた暴力の脅威を表している証拠なのです。

それでも、この時の未夢は、心の底から喜んでいた、本当によく頑張った。
同時に、悠季の心に秘められた恐怖の大きさを考えずには・・いられなかった。

そういえば偽善も小学生の時までおねしょをしていた、と、偽善から聞いた事がある。
自分はしていても、子どもの悠季には怒るんだ・・・サイテイ。